COME AND GET YOUR LOVE!
GotGピーター・クイル&ロケット・ラクーン中心webアンソロジー
なんど
やえしんぎく
銃火器を振り回し宇宙の法律も倫理も無視して破壊と殺戮を繰り返していた男は、本日ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのメンバーに追い詰められていた。
自称天才宇宙学者と名乗り、違法薬物で身体を強化しながら向かってくる最新兵器をちぎっては投げし、自作兵器で応戦しながらなんとか奴らに推し負かされないように耐えている。
しかし、戦闘経験や力の差故に男が倒されるのは時間の問題である。
追い詰められてきて粗くなった攻撃の隙をつくように飛び出したネビュラの反撃で男はバランスを崩した。痛みと熱さで全身がダメになったような感覚が走り、自分が作った兵器たちが無惨にもバラバラにされ脳が焼けるようにぐらついて、男の目から溢れた冷却水が床にバシャリと広がる。
その水溜まりを見て顔を上げ、男は先程吹っ飛ばされたときに壊されたラボに視界が引き寄せられた。今までの天才宇宙学者としての積み上げたあれそれがごろごろ転がって、まるで勝利を願い笑いかけるように、使ってほしいと祈願するように溢れ出した自作兵器たちが男の脳味噌をかき回す。ちょうどよく手元にあったものをこれ幸いとさっきからぎゃあぎゃあと喚き散らしあっている1人と1匹に投げつけた。
ネビュラの「そっちになにか飛ばしやがった!」という警告虚しく、ネビュラと共に男を追い詰めていた1人と1匹……クイルとロケットに打ち当たる。磁石がくっつくように吸い込まれていったようにも見えて、男は痛む口でひひとほくそ笑んだ。
それはガチャガチャ音を立てながらクイルとロケットをまとめて拘束しだす。銀なのか紫なのか判断のつかない色合いを持つ機械は2人を逃さないように動き出し、内部から伸びてくるコードが更に拘束を強め、そのコードが破損されないようにどろりと溢れてきた液体が瞬間冷凍されたかのように固まった。鎧のように纏わりついてくるそれが妙な硬度を持っており、味方ならばなんと心強かっただろう。
「な、なんだァ!?」
クイルは驚きに声を荒げ拘束部が広がり増えていく体をぐっと動かすため力を入れる。ビギッと縛りつけた機械が悲鳴をあげたが、肉が抑え込まれ骨を砕こうと力を強めてくる機械は外れてくれそうにない。
息が詰まったらしくクイルはげほっと咳をこぼした。どれほど破壊に強いスーツでも中に包まれた肉塊が耐えられなければクイルがその辺の人間ではなかろうと死んでしまうという焦りがふっと擡げる。
「ぐっ!?テメェッなにしやがる!?」
あまりの勢いに武器を取り落としたロケットがウガアッと吠え、自分の身体を拘束しながら引き千切ろうと躍起になる機械に爪を立てる。僅かについただけの傷に舌打ちが漏れ出たのは仕方のないことだろう。
救助に向かおうとするネビュラの前に立ちはだかった男は高らかに笑いながら、先程ラボから散らばった兵器たちを次々と彼女に投げつける。ひとつだけなら捌けたが多種多様な珍妙なギミックが宿されたそれらはネビュラの僅かに足を止めることに成功したらしく、男は心臓が高鳴っていくのを感じた。
「はーっはっはっはっはっ!!」
「クソやろうが!外せッぐっ…!」
「クイル無駄に動くな!いでっぐっっぐぅ…!」
「けどッこのままじゃちぎれるッ」
「ロケット!ピーター!くそっ退け!ガラクタ共!」
「貴様らのことは見抜いてやったぞ!!!貴様ら、チームという割に仲が良くないんだなぁ?あぁ!なんてうってつけの我が兵器!」
「ん?」
「は?」
「あ?」
「え?」
しん、と止まった空気に3人と1匹は顔を見合わせる。敵も味方も関係なく、ぱちり、と視線が絡まった。
さっぱりした空気が流れて、ここ以外で暴れている仲間たちが起こしたであろう爆発音が遠くで聞こえる。この感じはドラックスだろうか、とロケットの頭によぎった仲間の姿はうははははと笑っていた。現実逃避だ。
「えーっと………なんていった?」
クイルがミチミチ身体を鳴らしながら口を開く。
「は?なんだ?」
「いや、だからなんて?あー…えっと、もう一回言ってほしい」
頬をひくつかせたのはクイルで、ことの成り行きがわかったロケットは溜息を吐く。拘束されている今はそれしかできないから、ともいえる。
ネビュラが白い目をして向かってきた最後の一つをカーンと叩き落としその音が辺りに響く。
それを合図に話し出した自称天才宇宙学者はほんのりと居心地悪いものが背を撫でた気がして、それを見ないふりしながら言葉を吐き出した。
「なんだ?それほど詳しく知りたいのか?んはははっならば教えてやろう!それは【親密な関係で無ければ解けない】というパーティグッズなんだがなぁ、なにを成功させたのか課題をクリアしなければ引きちぎるしか能がなくなってしまってなぁ!ははははっ」
「いやァその、楽しそうに笑ってるとこ悪いんだが俺たち仲良しだぜ?親友よ、親友」
「は?」
「そうだな」
「は??」
「そいつらお互いに事あるごと親友〜ってうるさいぐらいだよ」
「は???」
「それ以前に、まぁ俺たち長い付き合いの仲間だし」
「え?」
「そういやお前とも長いな。何年だ?」
「え??」
「グルートよりは短くとも私より長いと思うよ」
「え???」
「んじゃあ、そういうことで」
ふんっと力を込めたロケットの拘束が「認証しました」と鳴いて鱗のように剥がれていく。数分拘束されただけで外気に触れる肌が粟立つ。
カケラを払いながら「賢い機械だことぉ」と呟いたクイルは自由になりつつある身体を無理矢理動かすことで、剥がれ落ちるスピードを早める。パキパキ剥がれていく身体を覆うそれをひとかけらつまみ、呆れた顔で放心した男の横を通り抜けこちら近づいてきたネビュラに向けて見せ首を傾げた。
きらきら、と光るそれは先程の銀だか紫だかの色を無くし宝石のようでありガラスのようでもある。上手く加工されて店で売られていたら、綺麗なものが好きな奴はなにも知らず手を出すだろう。
「見たことある?」
「さあ?違法なのは確かなんじゃないの」
力を込める端から解けるように崩壊していくため光源に焼かれる羽虫をクイルは場違いながら思い出してしまう。
「検査スキャンしてみる?」
「しなくていいぞー。そりゃ鉱石の一種だ。混ぜ物によって硬くなったり柔くなったりするんだが、加工するのに馬鹿みたいな低温じゃなきゃ反応もしやがらねぇ偏屈鉱石だぜ。金がなきゃ触らないし、買いもしないガラクタだ。ほっとけほっとけ」
「ふーん?綺麗なのにもったいねぇの」
「…ここまで加工されてるなら売れば高値じゃないの?」
「その手があったな!」
「やめとけって、証明ができないだなんたら言って安値で買い叩かれてしまいだぜっと。ふぅ…テメェらも手伝えよな」
呆然としていた男が抵抗する暇もなくロケットに拘束されていくのを眺めながら喋っていたクイルとネビュラは手を出す気は無いらしく、肩をすくめるだけだ。一発殴る手ぐらいなら貸すぜ、とクイルが冷やかすように片腕を掲げたのをロケットはしっかり無視しておいた。
拘束された男がゆっくり冷んやり静まるのと反対に、騒がしくなっていく3人と遠いところでどっかんばったん騒いでいるガーディアンズのメンバーたちの空気はカラッとして熱さが辺りに広がっていく。ネビュラがわざとらしく息を吐き出して目の前でにま、と笑っているクイルから視線を外した。
「なにする気?」
「なーにも?」
「変なことしないで!」
外した視線をすぐに戻して吠えてみせたネビュラからクイルはひらりと離れ、ひと仕事終え周りに散らばった機械たちを器用にバラし自分の思い通りに再構築しているロケットに近付いた。拘束された男は視界に入らないらしく彼が下を向くことはない。ロケットもそれを察しているようで特に話題に出さず男から離れ、歩き出す。カチャカチャと手元で意思を持つように生まれ変わるのはいつ見ても手際よく、クールだ。グルートがいればパーツ集めに枝を伸ばしただろうし、マンティスがいれば興味津々で覗き込んでいただろう。それはものの瞬きで完成したらしく、クイルには全てがわからないがロケットの武器のひとつになったであろうことは理解している。先程とは違う頬の緩みが表情に表れたクイルが追うように合わせて足を踏み出し、険しい顔したネビュラも少し距離を空けながら歩き出した。あの騒音の元……ここに3人を送り出してくれた仲間の元……に駆けつけ手を貸さなきゃ彼らの仕事は終わらない。
「じゃあ、これはロケットにプレゼント」
「はぁ?いらねぇんだけど?」
「いいじゃん!誰もいらないって割に詳しかったんだし、ロケットならどうにかできるんじゃねぇの?な?」
にんまりと笑ってみせるクイルに、見上げるように視線を向けてから手に持ってこちらにみせてくる美しいものがロケットには厄介の種にしか見えない。しかし、まぁロケットには「できなくもない」ので舌打ちと共に受け取り、視界の端に呆れ顔のネビュラがみえてロケットは咄嗟に視線の向きを変える。あの視線をまっすぐ浴びれるならロケットはこれを手にしていないので、逸らしてしまうのは妥当だ。
「早く終わらしてノーウェアに帰ろうぜ。あそこならなにからどれからそれまで揃うし、こうぐぐーっと加工してさぁ。コスモも呼ぶ?」
「あー、温度管理手伝わせるって?それより機械作ったほうが効率いいぜ、たぶんな。」
「へぇ?じゃあ、なにができそうなんだ?」
「さあ?それよりこの話やめよう、ネビュラがやばい」
「おっと」
「よっし、急ぐぞ」
次の一歩に勢いを乗せて踏み出した1人と1匹を追うように呆れてものも言えないネビュラの軽い足音が鳴った。
幾許たったある日のノーウェアで、紫と銀の輝く花火が上がったとかなかったとか。